ガラスの青年時代

わたしは、ベロニカ。

６月に入って、植物の力が

みなぎってきたと感じるおんなのこ。

枯れかけていた、あじさいも

花をつけ、

去年植木市で買った後、虫食いで

葉っぱのなくなった山椒もふさふさに。

株分けしてもらった大葉も

元気に根をはったわ。

だというのに、ここの人間ときたら、

 

しかも、パンツ１丁で、うろうろしないでほしいわ。

さすがにママも、

「パンツ１枚でうろうろするなぁーーーー！」と

すると、としくんは

 

ですって・・・。

 

そんなとしくんも、

昔はカメラを片手に、自らグラフィックデザインの素材を求めて

あちこちロケハンに出かけていたのよ。

あの、こころざしは

どこへ行ってしまったのかしら。

 

自然のものは美しいのだ！と何時間もカモメを撮影してたのが

昨日のことのようだわ。

 

歴史を辿ってみたいのだと、

熱い思いで空を飛んだのはいつのこと。

霊感の強いとしくん、

歴史が重たすぎて、動けなくなったわね。

あの感受性は今はもう彼方。

戦争の傷を感じすぎて、

壊れそうだった繊細なこころ。

祈りの気持ちに寄り添って、

敬虔なまなざしをしていたのは誰？

人も、花も、虫も

地球のいのち、と　胸をじんとさせていた

青年はどこへ行ってしまったのか。

すべては、過ぎ去りし日々の

残骸となってしまったのね。

そして、今となっては、

が、ひとり。

もはや、原型を

とどめていないわ。

 

わたしは、ベロニカ。

としくんはほんとうに繊細な青年だったのね。