わたしは、ベロニカ。
いよいよ海辺へ行くおんなのこ。
たっぷりお昼寝したから、しゃっきしゃきよ。
夕方になって少しは涼しくなったかしら。
海が早くおいでと言っているわ。
男たちは死にかかっているのよ。
としくんは、六占星術でいうところの金星人。
土星人であるママに頼まれると頭でどれほどいやだと思っていても
体がかってに動いてしまう悲劇的な状況におちいってしまうの。
そして、兄は最初のミッションから逃れることに成功して、
旅館での昼寝権を手にいれたの。
ママの阿波踊り見物につきあうという条件とひきかえに。
旅館から歩いて5分もしないところに、いい釣り場があるわ。
もちろん偶然なんかじゃないのよ。
グーグルアースで綿密に調べてから予約をいれたの。
そして釣りの準備がはじまると、おばあちゃんは口をきいてくれなくなるの。
ねえねえ、何を釣るの?
としくんは、やっぱり、くたばりそこないのままだわ、
すさみようが、激しいもの。
わたしは、暑さから逃れるために、となりの砂浜へ突撃よ!
待ってたわ!この時を!
大人になると、楽しいが減っていくんだって。
楽しいをいっぱいもってると、元気で長生きできるのよ。
釣りが大好きな
うちのおばあちゃんは、200才まで生きると思うわ。
さんざん海で遊んだあとは、海辺の水道水でじゃぶじゃぶ洗われて
おばあちゃんたちの釣り場へ。
レンガが燃えるように熱いので、イスの上で乾かしてもらうの。
ママは言ったわ。
「べりー、もうすぐおにーちゃんが来て、いっしょに
阿波踊りを見に行くんだから、早く乾かさないとね。」
でも、そこは、もってる男、としくん、
ガシラを釣り上げたわ!
見せて~~
わたしはそっと、かんだのよ。
それから、おばあちゃんの応援をしたわ。
すると、おばあちゃんもアイナメを釣り上げたの。
ガシラもアイナメもとてもおいしい魚よ。
わたしは、しばらくながめて、お魚を観察したわ。
そうして、海に逃がしてあげたの。
他にも、ハゼやベラなど、いろいろ釣れたので
地元のおじさんにあげることにしたわ。
地元のおじさんは、その魚をエサに大きなタコを釣るんだって。
それにしても、どうしたのかしら・・・。
兄が迎えに来ないわ。
阿波踊りが始まってしまうというのに・・・。
それから、ママととしくんたちの飲み物を買いに行って
釣り場に戻ったけれど、やっぱり、兄は来てなかったわ。
待てど暮らせと、兄の姿を見ることはなかったわ。
そう、兄は旅館でずっと昼寝をしていたのよ。
えええ~~~
ママ、良かったの?あんなに楽しみにしてたのに。
出店とかいっぱいで、きれいなゆかたを着た人が
町にあふれていて、あざやかな阿波踊りなのに・・・。
わたしたちの大好きな夏の風物詩よ~~
どうして、おにーちゃんに電話をしなかったの?
「べりー、これは賭けだったのよ。」
ママはにこにこしながら、
「ママが死ぬ時に、おにーちゃんはね、
ああ、どうしてあの時、阿波踊りに
連れて行ってあげなかったんだろう。って
思うのよ。
そしてその先の人生、
阿波踊りというフレーズを
聞くたびに今日の事を、いやでも思い出して
後悔するがいいわ!」
おにーちゃんを試したのね?!
ママはこれ以上ないといった笑顔でこう言ったの。
「ううん、冗談よ、疲れているだろうから、
ゆっくりお昼寝させてあげたかっただけ。」
わたしは、ベロニカ。
おにーちゃん、ママが死んだとき、
絶対後悔しなくていいからね!
阿波踊りのこと。