命をけずって

わたしは、ベロニカ。

川遊びなんかが、大好きなおんなのこ。

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今年の春のおもいで

 

だけど、急にママは川に連れて行ってくれなくなったの。

それは、公園に来るわんちゃんが両足に包帯をまいていたことで、

事態が急変したわ。

 

そのわんちゃんは、わたしもよく連れて行ってもらっていた最明寺川で

マムシに噛まれたというの。

 

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助かるために、獣医さんは、3日3晩、足の肉をそいで出血させつづけたというの。

いまでは、わんちゃんは元気になってお散歩にこれるくらいになったので、

本当に、よかったわ。

みんな口々に犬は強いねって、感心したの。

 

ところが、

助かったのには、わけがあるの。

それは、獣医さんのところで、飼われている犬の血液を輸血しつづけたから。

先生はそれこそ3日3晩治療しつづけたそうよ。

運のいい、わんちゃんだったということもあるわね。

 

写真はイメージです
写真はイメージです

 

さて、今日は11月最後の日。

午後からお裁縫クラブの予定を入れていたママは

たいそう慌ただしく、お仕事場へ行って、乾燥中の菊芋の世話をしたわ。

それから黒にんにくをローテーションして、

10件ほど、支払やら伝票整理をし

そして、お昼ごはんの仕込みを終えた後、

また慌ただしく、わたしを獣医さんへひっぱっていったわ。

 

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毎月一度の、爪切り、耳そうじ、肛門腺しぼりなの。

フィラリアのお薬は、今月で終わりね。

先生は、わたしの足の裏の毛を丁寧に丁寧にバリカンでそるのよ。

気持ち悪いわ!

 

めずらしく、病院はガラガラで、わたしの診察が終わった後も

まっている患畜さんがいなかったので、

 

ママは、ふと、マムシにかまれたわんちゃんの話を聞いてみたの。

「輸血で治ったって聞きましたけど、犬って強いんですね。」

 

先生は首をふって、ほんとうに危なかったって。

マムシの血液毒は、どんどんと壊死をおこしていくので

3日間つききりだったって。

 

写真はイメージです
写真はイメージです

 

そして、先生は

「輸血を簡単に考えないで下さい。」と。

 

「うちで飼っている犬は輸血犬ではなくて、

ぼくのペットです。

たまたま、ぼくに買われているせいで、血をとられなくてはならない。

ぼくは、目の前の動物の命をすくう手段として、愛犬の血液を

採取する。

目の前に死にかかっている人がいたら、ぼくは自分の血を差し出す、

そのことと一緒なんです。」

 

輸血のために血をとられた犬は、虚脱状態になって

苦しそうな呼吸を繰り返すの。

 

先生は、愛犬のバイタルを確かめながら、ぎりぎりまで

愛犬の命をけずって、目の前の命を助けるのよ。

 

先生は尚もつづけたわ。

 

「命がある、ということが、大事なんです。

例え、足がなくなっても、生きているということの意味の大きさに比べれば

たいしたことないんです。」

 

ママの足元で話を聞いていたわたしは、

涙がこぼれそうになったわ。

なんていうのかしら、

とても、強い使命的なものを突き付けられたような。

 

先生の友達にも輸血をする犬を飼う獣医さんがいて、

ある日、その友達から、輸血したいので先生のところの血液をくださいって

連絡が入ったの。

 

先生は、あれっ、先生のところにも輸血する犬がいたんじゃ?と聞いたら、

輸血したいのは、その犬なんです、って。

14年間たくさんの犬に輸血をしてきた、その犬の内臓に出来た腫瘍が破裂して

輸血が必要になったというの。

 

その友達の先生は、長い間、他の犬を助けてきたこの子にも

輸血をして助けてあげたいって。

 

愛犬の命をけずる先生たちの心の痛みが伝わってくるわ。

 

写真はイメージです
写真はイメージです

 

先生は悲しそうに、

「輸血をしなければよかった、と思うことがある。」と。

 

はっきりとは口にしなかったけれど、ママとわたしには

 

「輸血なんてしなくてよかったのに。

そんな治療費払えません。」

 

そう言ったであろう、先生の向こうの飼い主さんが見えたわ。

犬の命は重たくも軽くもなるということ。

 

最後に先生は、

「動物は簡単なんです。

ややこしいのは、いつも人間です。」と言ったわ。

 

わたしは、ベロニカ。

いつもは意識なんてしてなかった、命を感じたわ。

先生の話を聞けて、ほんとうによかったわ。

命が輝くって意味が少しわかったもの。

 

inunoegao

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