わたしは、ベロニカ。
ママから、よく昔の話を聞かされる おんなのこ。
そんな話がはじまったからといって
絶対、言ってはいけないのが
「その話、もう聞いたわ!」
という一言。
そのような事を言おうものなら、
ママをたいそう機嫌悪くさせてしまうの。
兄から教わったのよ。
それは、ジャンタールのこと。
ママのお父さんは、若いころ住友金属で
金属の研究をしていたらしいの。
各研究室にはセキセイインコや、文鳥が飼われていて、
毒ガスが発生したときの、バロメーターとなっていたというわ。
ママのお父さんは会社をやめてからも
様々な危険な薬品を家に持ち帰っては
試行錯誤を繰り返していたの。
そして、ある日、開発したのが
永遠に匂いを吸収し続ける、消臭金属。
その消臭能力は大変に強力なもので、臭い公衆トイレの
悪臭すら、感じさせなくなるもの。
すごく、売れたって思うでしょ。
でもね、形状に問題があったのよ。
安価で手に入る表面積の大きな
金属を使ってしまったの。
それが ↓ コレ。
流しの生ごみのにおいを軽減するために
置かれた発明品は、
おばあちゃんが、鍋のコゲをおとすために
ごしごしするので
違ったものになって、そして捨てられていたわ。
一度、購入したお客さんが、ただの金だわしを
高い値段で買わされたと消費者センターに
苦情の電話をいれたことがあったの。
ママのお父さんは、消費者センターに呼び出されて、
金だわし、じゃなかった、消臭金属を持って行ったの。
すると、消費者センターの人は
「これはすごい!」と、何人もが購入してくれたくらい
すごい効果があったの。
でも、やっぱり、どう見ても、金だわし・・・。
ただでさえ、商売のヘタなママのお父さんは
あきらめて次の開発にとりかかったわ。
そして生まれたのが、
解凍板ジャンタール
すぐに特許を申請したこの開発品!!
机の上と、ジャンタールの上に氷をおいて
解凍の仕方を比べてみると、
2秒後
1分後
3分後
国際見本市には、たくさんの人がブースに
集まって、そして、たくさんの
類似品が売り出されたわ。
類似品は、多くの家庭に買い求められて、
そして、たいしたことないねって、
忘れ去られたわ。
だって、類似品の素材はアルミだから・・・。
本当のすごいところは、特許の秘密は
ジャンタールがトルマリンで作られているということなの。
氷はとけながら、振動を繰り返すの。
トルマリンが分子のクラスターを切って
その遠赤外線効果で、氷はとけるの。
お刺身でもお肉でも、ジャンタールで解凍すると
抜群に味がおいしくなるというのが、
すごいところなのに。
ママのお父さんは開発や研究には向いていたけれど
商売することには、まったく才能のない人だったのね。
トルマリンを使った原価を考えてなかったの。
わたしは、ベロニカ。
ママのお父さんが、今どうしているかって?
数枚のジャンタールを残して
氷のように蒸発してしまったわ。