エルバンの万年筆

わたしは、ベロニカ。

新しいイスが、あったので座ってみるおんなのこ。

 

今日は、お留守番なの。

ママは運転免許の更新に行ってしまったの。

だけど、机の上に

を、おいたまま。

 

ボケが始まったんじゃないかしら。

わたしにごはんを作るのを

忘れるかもしれない。

いや、逆のパターンなら、少々ボケてくれても、いいんだわ。

 

ママがそのことに気付いたのは

更新センターに到着してからという

嘆かわしい状況だったわ。

家に更新のハガキと住民票を

取りに帰っても、間に合わないようだわ。

ママは、気を取り直して

ひとり、車の中でつぶやいたわ。

「あ、きょうはイオンへ来たのだったわ。」と

負けを認めたくないのは、わかるけど

自分についた嘘を、そのうち真実と

思い込むくせはよくないわ。

ようするに、

でもね、ヘミングウェイは言ったわ。

あちこち旅をしてまわっても、

自分から逃げることはできない。って

 

ママはわたしのいない、束の間の自由を

楽しもうと、いろんな店をみてまわったの。

でもね、服を見たりするのは、休日がちょうどいいの。

平日の午前中なんて、他にお客さんもいなくって

店員さんがぴったりと

くっついて接客してくれるもんだから、

いろいろ、やりにくいの。

 

とりあえず、基本的に接客のない

書店に逃げ込んだわ。

ここで、最初の出会いがあったわ。

２冊の情報本。

ペットとのおでかけプランが地域ごとに

まとめてあって、とてもいい本だわ。

でも、宝塚ウォーカーは、何なの？

あまり地元の人間が買うような本ではない気がするわ。

 

そして、２つ目の出会いは、

エルバンのスケルトン万年筆、千円！

エルバンは、インクとシーリングワックスの老舗。

シーリングワックスというのは

エルバンはルイ１４世からフランス王室での御用達。

シャネルの香水はエルバンのシーリングしか使わなかったの。

１７００年には本格的にインクの生産をはじめて

フランスのすべての小学校の指定色となったのよ。

 

さすがのおフランス。

インクのネーミングも詩的だわ。

 

アンティークブーケなんて、何とも言えない美しい色。

ママは黒真珠を購入したわ。

 

 

こじゃれた文房具は仕事を豊かな気分でさせてくれるのよ。

ママは、気分が上がったので、前々から作ろうと思っていた

おにーちゃんのステテコの生地を買いに行ったわ。

 

それがこれよ。

そしてついでに、裏口にかける

のれんの生地も。

 

うちには、ミシンがないのに、

どうするつもりなのかしら。

 

千円で、こんなに盛り上がれるんだから

いいわね。